グラシアス!コンタドール。
ラストダンス。
永遠と続くと思われる山道を、クネクネと身体を左右に揺らしながら、ダンシングで駆け上がる姿がある。
遠くから見てもその姿は歴然だ。
けして美しいダンスではない。
歯を食いしばり、時より険しい表情を浮かべ、前を見て、進み続ける。
スペインの偉大なるロードレーサー アルベルト・コンタドール。
もう彼のダンスを見ることは出来ない。
彼の最後の舞台となった、ブエルタ・エスパーニャ。
早くも序盤でタイムを大きく失い、そうか、やはりそろそろ身を引くべきなんだろう…と思っていた。
しかし彼は、諦めてはいなかった。
毎ステージ、わずかなチャンスがあるとアタックを繰り返し、それは中盤から終盤にかけ、益々加速する。
時には失敗しながらも、徐々にではあるが、序盤で失ったタイムを身を削る思いで挽回する。
わずかな可能性がある限り挑戦し続ける。
そう、彼の走りはいつでもそうだった。
無謀と思えるアタックを繰り返し、大逆転を演じたこともあった。
彼は誰よりも諦めてはいなかった。
そして、今年のブエルタの最難関と言われる山頂ゴールに向かい、ダンシングを繰り返す姿があった。
狭い山道を、多くの歓声の波をかき分けながら、いつものように歯を食いしばり必死に激坂に食らいつく。
ラスト3km、地元スペイン、いや世界中のロードレースファンが、祈った。
誰よりも先に頂上へ降り立ち、彼のフィニッシュポーズである、ピストルを放つ姿を見たいと。
轟音を放ちながら山頂の空に彼のピストルが響き渡った。
その姿は誰よりも美しかった。
偉大な業績を重ねながら、それ以上に我々の記憶に、いや心に刻みついたその走りをけして忘れることはないだろう。
このブエルタの舞台を最後に、現役生活にピリオドを打つ。
ありがとう。
コンタドール。
ラストダンスを。
text.koshikawa